ファンダイビングのトレーニングとは
ファンダイビングは「遊び」ですが、自由に楽しむには土台となる技術と体力が必要です。講習で学んだ基礎を実践で使えるレベルへ引き上げることが目的で、水中姿勢、呼吸、浮力、ナビゲーション、チーム連携を段階的に鍛えます。初心者でも始めやすい練習法と、継続しやすいメニューを紹介します。
まず整える3つの土台
呼吸法の安定
浅く速い呼吸はガス消費と浮力の乱れにつながります。鼻から長く吸って口からゆっくり吐く「ロングエグゾ」を意識し、吐く時間を吸う時間の2倍に。水面で1分6〜8呼吸の練習を続けると、水中でも落ち着きます。
トリム(姿勢)の固定
肩〜腰〜膝〜踵を一直線に保ち、目線はやや前。BCDとウエイト配置を見直し、背中寄りに重心を集めると水平が取りやすく、砂の巻き上げも防げます。
中性浮力の精度
浅場でホバリング30秒を目標に、呼吸だけで上下数センチに収めます。BCDは小さく一回ずつ操作し、フィンは止める練習を重ねます。
効率よく泳ぐためのキック強化
大きく蹴るほど進むわけではありません。抵抗を減らし推進力を前へ集中させると、疲労が減って観察や撮影に余裕が生まれます。
フラッターキックの省エネ化
股関節を主軸に小さな振り幅で。膝から下だけを振らず、太腿で水を押す意識にすると安定します。息が上がらない強度を探りましょう。
フロッグキックで砂を抑える
膝を開いて足首を外へ倒し、内側へ閉じる時だけ推進力。砂地や洞窟で効果的で、チームの視界を守れます。
バックキック・ヘリコプター
狭い場所で後退や方向転換が可能。最初はプールの壁際で10cm単位の後退を繰り返し感覚を掴みます。
ナビゲーションと環境適応
迷子にならないことは安全と残圧管理に直結します。同時に、流れや低視界への対応も準備しましょう。基本から応用へ段階的に強くなります。
コンパスの基本
往路と復路で180度差を意識。フィンキック数や時間も併用して手がかりを増やします。
ナチュラルナビの観察力
うねり、日差し、砂紋、岩の割れ目、目立つ生物を記憶。目印は3つ以上組み合わせると混乱しにくくなります。
低視界・流れへの対応
視界が悪い時は距離を2〜3m以内に短縮し、ライトサインを統一。流れの日はロープ沿いに移動し、ドリフトでは「浮力→姿勢→キック」の順で負荷を下げます。
器材スキルとトラブル対処
海に入る前の確認と、水中での落ち着いた対処が集中力を守ります。小さな不具合も練習の機会にしましょう。
事前チェックの習慣化
ストラップ角度、オーラルインフレーション、ホース取り回し、残圧・Oリング・吸気音を出港前に確認。チェックリストをスマホに保存して抜け漏れ防止。
水中ミニドリル
膝立ちで「マスク半排水→全排水→脱着」、次に「レギュレーターリカバリー→スイープ法→交互呼吸」。動作前に一呼吸おくと成功率が上がります。
緊急上昇を避ける判断
耳抜きが苦しい、寒気が強い、残圧低下が早い等の兆候があれば浅場へコース変更。エキジット前倒しも安全の一部です。
海を守るダイビングマナー
環境に優しい動きは写真の透明感も高めます。長期的にポイントの良好な状態を守るため、接触を最小限にしましょう。
接触ゼロの意識
機材のぶらつきはクリップで固定し、カメラのストラップ長も調整。サンゴや海藻の近くではホバリングで停止します。
浮上とボートマナー
浮上前3分は浅場で安全停止。ボート付近ではBCDを膨らませ、シグナルフロートで存在を示し、ラダー下に人がいないか確認します。
上達を加速する陸トレとメンタル
水中だけが練習場所ではありません。短時間でも続けられる陸トレと、緊張を和らげるメンタル術を取り入れましょう。
呼吸筋・体幹トレ
4秒吸って8秒吐くブリージング5分、プランク30秒×3、股関節ストレッチ。前夜の睡眠と水分補給も効果的です。
イメトレとログ
「入り→移動→観察→浮上」を頭で再生。ダイブ後は「うまくいったこと」「次に直す1点」を1行で記録して改善します。
4週間で整える練習プラン例
次の休暇までに基礎を固めたい方向けの目安です。週末に海、平日は短時間の陸トレでOK。
Week1:呼吸とホバリング
浅場でホバリング30秒×3本。呼吸だけで浮力を調整し、フィンは止める。陸ではブリージングと体幹を習慣化。
Week2:キックの使い分け
砂地でフロッグ、障害物手前でバック、移動は省エネフラッター。動画でフォーム確認。
Week3:ナビとチームワーク
コンパスで三角往復、目印3つ以上。ライトサインを共有し、役割を決めて潜ります。
Week4:総合ドリルと環境配慮
器材トラブル想定を1本、ドリフト想定で姿勢→浮力→キックの順で整える1本。最後は接触ゼロで撮影に挑戦。
チェックリスト(潜る前・最中・後)
潜る前
・目的とコース、最大深度、残圧の目安を共有
・器材の装着状態、ホースのねじれ、予備空気源を確認
・ウェイト量を再点検(淡水/海水で調整)
潜っている間
・中性浮力が乱れたら「呼吸→BCD微調整→フィン停止」
・チーム距離を保ち、サインの返答は必ず行う
・30barごとに残圧確認
潜った後
・ログに技術の気づきを1行
・器材を真水で洗浄し不具合をメモ
・疲労時は休息日を入れる
練習時の安全管理とコンディション判断
練習は「無理をしない」設計が基本です。体調・海況・装備のどれか一つでも不確実なら、負荷を下げるか中止の判断を取りましょう。上達は継続の産物であり、一日で詰め込むよりも、確実に積み上げた方が結果的に早く強くなれます。
海況の見極め
風向き・うねり・潮汐・透視度を事前に確認し、現地ではブリーフィングで代替プランを持つこと。浅場で試し潜りをしてから本番コースに入ると安心です。
無理をしない撤退基準
寒さで震える、耳抜きに時間がかかる、想定より残圧が早い、相棒とサインが合わない等が出たら早めに終了。安全マージンを残して上がる習慣が、次の好調につながります。
まとめ
派手な新技よりも「呼吸・姿勢・浮力」の反復が近道です。毎ダイブで小さな成功を1つ積み、海と仲間にやさしい動きを身につければ、行ける場所も見える景色も確実に広がります。次の一本で、今日の練習の成果を確かめましょう。